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海と島と人間と・・・・旅が好き!


by Satoe-Umeda
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往復詩のための詩三作目




『単純な暮らし』



沖縄の西表島に舟浮という
舟でしか行けない小さな村がある

そこで七年あまりキャンプ生活をしているキヤンパーがいると聞いて
彼を訪ねたことがある

私は海辺や川辺でキャンプをよくする
ひとりでする
夏の間だけだが 時として一ヶ月を越えることもある
そおいう長期のひとりキャンプを営む人を 私達はキャンパーと呼ぶ

先輩は海辺の岸壁に沿って
水色の大きなタープを張り その下に水色のテントを張っていた
テントの周りを枯れ木で囲み それは多分 防風のためなのだろう

無論 突然の訪問である

彼はカーボーイハットをかぶり どうやら それはトレードマークらしいのだが
短パンひとつで よく陽に焼けていた 歳は三十後半か

砂浜に突き立てられた棒くいにロープが張られ洗濯物が海風に翻っている

どうぞどうぞと勧められて住居の入り口に立てば
そこに古いバスタブがあり 中には大小のヤドカリがびっしりと蠢いていた

島の人達は釣りの餌にヤドカリを用いる
グシャリと石で叩き潰して まだ動いているのを使う

「水納島でね テント張ったら 一晩中 周りがうるさいの
 ガサゴソガサゴソ
 朝 起きたら テントの周り ヤドカリの足跡が縦横無尽
 ヒヤーツて叫んで場所変えたわ 苦手だなあ」
わっはっははと先輩は笑った

「四国の四万十川で張った時 たったひとりだったの
 で 一寸出かけて戻ったら 隣にぴったりとテントが張ってあったの
 見渡す限り無人の広い川原があるのに
 そのひと 大男でゴムボートで川下りながら旅してたの
 夜中に鼾が聞こえまくって ホント
 どうして よりにもよって隣に張ったんだろ」
「わっはっはは きっと 話相手が欲しかったのさ」

「昼ごはん 作ろうか」
さすがに遠慮した

蝙蝠も食べたことがあると聞かされた後だったので

彼をホームレスと呼んでもいい
でもキヤンパーと呼んでもいい

僅かな調理器具 食器と衣類
釣り竿と銛

そんなものだけで生きていけるのだ
ニンゲンは

ホームレスを襲った少年達と
川辺でも海辺でもいい
とびきりきれいな水の中に一緒に潜り
鋭い銛を持たせてやりたい

逃げ惑う魚を一突きで突くのは難しいぞ
けれど それは 面白いぞ
ニンゲンを殺すよりずっとずっと楽しいぞ

カーボーイハットさんは
今だ ご健在だろうか
by Satoe-Umeda | 2006-03-30 14:47